宜保通信 -霊能の世界-

第3回 霊の擬態に関する3つの話
その2 某地方名士の邸宅で起きた怪現象 ~ 祖母の霊が家族の首を絞める!

宜保詠歌ヒストリー 怨霊との闘い

正体を偽って霊能者を翻弄する悪霊の話。その第2話は中部地方某所の家屋で起きた怪現象を取り上げます。夜な夜な、屋内に出没する着物姿の老女の霊。当初は先だって亡くなったその家の女主人が、成仏できずにさ迷っていると思われていたのですが、弟子の要請を受けた冝保先生が現地へ赴いて調べてみると、そこに意外な事実が浮かび上がってきました。

邸宅で起きた怪現象

「どうか助けてください!」と情けない言葉ですがりついてきた弟子

前段と同様、これもまた私の弟子筋の1人が携わった案件です。今から約15年前、当時まだ30歳そこそこだった若い男の弟子を通して持ち込まれた相談事でした。

「ご伝授いただいた除霊法を色々と試してみたのですが、何をやって効果が現れず困り果てています。じつはこの件の依頼主は、身内が世話になっている人物で、このまま信用を失ってしまうと非常にまずいことになるんです。最悪、路頭に迷います。どうか助けていただけませんか!」

そんな身も蓋もない言葉で泣きつかれました。若さゆえの経験不足は仕方がないにしても、仮にもプロの看板を掲げている者としてはあまりに情けない言い草でした。さすがに癇(かん)に障ったので、電話口で即座に破門したのですがその後、本人が改心したため、再び門下に入れ直したという経緯があります。

現在、その弟子は霊能術の世界からは足を洗って易占や風水の方面に転向し、それなりの知名度を得て活動しているようです。私も前々から彼は占術家の方が向いていると考えていたので、納まるべき場所に納まったという感じです。

深夜に出現する不気味な老女

・・・・・と、まあ、余計な話はさておき、この時の相談のあらましを簡単に記しますと、まず場所は中部地方のとある小さな町。そこにある会社経営者の邸宅で、毎夜のように不気味な心霊現象が起きるとのことでした。当事者たちの証言いわく、

──深夜から明け方の時間帯、屋敷内を高齢の女性と思しき霊が歩き回る。それはいつも小紋柄の青っぽい和服を身に纏い、まるで生きている人間のように重い足音を響かせながら廊下から居間、台所、仏間、さらに2階にある家族の寝室を次々と移動していく。

ある時は就寝中の枕許でゲラゲラと笑いながら佇んでいたり、そうかと思えば何もない暗闇の空間に突如としてその生首だけが出現し、こちらが腰を抜かしている間に消えたりもする。さらに家の主人の妻や子供たちなどは就寝中、いきなりこの老婆に襲われて首を絞められたこともある。このままではとても住み続けることができない──といった次第で、恐怖に脅えた妻子は半年前から別宅に避難しており現状、その広い邸宅に暮らしているのは主人と使用人の2人だけとも聞かされました。

こうした訴えを受け、私が直に乗り出す仕儀となったのですが、家の当主本人からあらためて事情を聞いたところ、「あれは今から20年近く前に亡くなった祖母の霊だと思います」という、意外な言葉が飛び出しました。

どうして祖母の霊が子孫に祟るのか?

話によれば、その故人というのは早くに世を去った夫の遺志を継ぎ、子育ての傍ら家業の会社の女社長として長らく辣腕を揮(ふる)った女傑であったそうで、現当主の父親に当たる長男が40歳を過ぎた頃にようやく全ての身代を譲り、それから亡くなる直前までずっと屋敷の離れで暮らしていたとのことでした。

「その幽霊、肝腎の顔はいつもボヤけた感じではっきりと見えないのですが、身に着けている着物がですね、祖母が生前よく着ていた小紋の色柄とそっくりなんですよ。それで『アレ、死んだ祖母ちゃんじゃないか?』と妻に話したら、『私もそう思う』と頷かれました」

「なるほど。しかしもし、それがお祖母さんであるなら、どうして孫の家族を困らせるようなことをするのでしょうか?何か心当たりでも?」

別にカマをかけたつもりではなかったのですが、話の流れでそのように問い掛けると、当主の顔がにわかに曇りました。

「ええ、あるんです。身内の恥を晒すことになるのですが・・・・・」

彼が説明し始めたのは次のような話でした。

遺産相続の揉め事がきっかけで長らく絶縁していた叔父が死去。その頃を境に祖母の霊が出始めた?!

亡くなった祖母には、家の跡継ぎとなった長男の他にも3人の息子がおり、そのうちの三男というのがかなり問題のある人物でした。未成年の頃には非行で知られ、成人後もまるで身持ちが定まらず、それを無理矢理に勤めさせたものの、その勤め先で暴力沙汰を起こして逐電。以後は各地を転々とする浮き草暮らしを続けていたと。そして手持ちの金が無くなると密かに母親と連絡を取って援助を受け、再び借金を作るという繰り返しだったそうです。

この三男坊の叔父は母親の亡くなった直後、遺産相続に関する無茶な訴訟を引き起こし、最終的には長兄の前当主が勝訴したのですが、このことをきっかけに兄弟仲は完全に絶縁しました。

「それでその叔父がですね、つい昨年、亡くなったという報せが届いたんです。最後は悪質な借金取りに追われてかなり悲惨な状況だったようで、同居していた内縁の奥さんが自力では葬儀も出せないというので、仕方なくウチで代金を肩代わりしたくらいです」

「でも、そのこととをお祖母様の霊との間にはどんな関係が?」

「じつは生前、祖母はその叔父をずっと溺愛していたんです。ほら、世間でよく言う『出来の悪い子ほど可愛い』というやつです。死ぬ間際まで継続的にかなりの額を援助していたようで、それを知った父が祖母と言い争う姿を私も何度か目の当たりにしました」

少しややこしい話となりますが、つまり当主はこう考えたわけです。本家の人々が三男の叔父を厄介者扱いにして放り出し、みすみす貧しさの中で死なせてしまったことを亡き祖母の魂が恨みに思っているのではないか?だから自分たちは今、その怨霊に祟られているのではないか?と。

当初、この件を引き受けた弟子が、こうした当主の推測に沿って除霊を試みていたことも明らかとなりました。しかし何をやっても上手く行かず、最後は私に泣き付いてきたというわけです。

夜な夜な出現していたのは祖母の霊ではなかった

その後、現地の隅々まで霊視した結果、私は次のような結論に至りました。

  • 毎夜、屋内に出没する老婆の幽霊は何らかの実体を持つ不成仏霊で、しかもその一家に強烈な恨みを抱いている。
  • ただし、その存在は10年前に亡くなったという祖母の霊ではない。祖母本人の魂はとうに霊界へ帰幽しており、それが直接的な霊体の出現という形で現世に関与することはあり得ない。
  • 一方、事前に弟子が行った除霊や浄霊に関わる諸々の儀式は、いずれも祖母の霊の成仏を目的としたものであったため、いくら修しても効果が現れなかった。

因縁解消や成仏を目的とした浄霊祈祷というのは、事前に祓う対象の素性が明らかになっていないと大抵、失敗に終わります。術者が霊の素性を見破ることは、両者の霊的な力関係の差を明らかにするという意味合いを持ち、それによって相手を屈服させてから経文なり祝詞なりを誦(しょう)して成仏へ導くわけなのですが、逆に正しい素性を見破れなければ素直に従ってもらえませんし、鎮魂の波動も届かないのです。つまりこのケースについて言えば、私の弟子は「邪霊にナメられた」ということです。

では、謎の老婆の霊の正体は何だったのか?察しの良い方はすでにお気づきと思いますが、それは前年に亡くなった三男の叔父の霊魂がその母親に変化(へんげ)した存在でした。この叔父という人物は自分を馬鹿にして邪険に扱った長兄を終生恨み続けていたようで、その悪感情の執着ゆえに肉体を離脱した後に怨霊と化しました。しかし肝腎の復讐の相手はその時すでにこの世にはいなかったため、代わりとして甥の一家を標的にしたのです。

ただ、それが老いた母親の姿として現れたのは、決して意図的なものではなかったと思います。恐らくこの叔父は死の間際、母親に対する思慕の念を強烈に募らせていたのでしょう。その想念の澱(おり)が死後に固着し、図らずも自分自身がその形姿に変化してしまったのではないかと推測しました。

なお、霊の正体を見極めた後は速やかに浄霊の儀式を行い、この件はそれで解決となりました。

不成仏霊が他者を装って現れるケースは案外と多い

何らかの原因で成仏できずに怨霊化した存在が、生前の自分とは異なる姿で出現する現象は往々にしてあるもので、私個人が携わった案件だけを見ても枚挙の暇がないほどです。前段でご紹介したコンビニに降臨する釈迦如来もそれに類するケースですし、とくに怨霊悪霊という存在はじつに様々なものに化けます。

例えば心霊スポットと呼ばれる場所で、多種多様な姿の亡霊が現れるというケース。ある時は白いドレスを着た若い女の霊、またある時には小さな子供たちの霊、そうかと思えば首のない男や甲冑姿の落ち武者まで目撃されている。しかし現地で霊視してみると、悪さをしている地縛霊はわずかに1体だけ──。実際、そんなことがよく起きるのです。つまり、その場所では単体の霊が複数に分裂し、それぞれ容姿年齢性別まで異なる他者に化けて、それらが同時に目撃されているわけです。

では何故、霊は別の存在に化けるのか?その理由については一概には言えません。除霊されることを拒んで意図的に偽装することもあれば、今回取り上げた実例のように他の様々な要因が重なって偶発的にそうなってしまうケースもあるからです。

「とにかく、霊を見たら別人と思え」・・・・・これ浄霊供養を修する術者に取って、万が一にも忘れてはならない大切な教訓です。

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